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前見建築計画一級建築士事務所
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大郷の曲り家
宮城県の内陸部に建つ復興住宅。田園に囲まれ、山腹には集落が点在する長閑な地域の中でセカンドライフを過ごすための装置として、「移動する楽しみ」と「バリアフリー」と「風景としての住宅」となるよう調停された平屋。
LDKと主寝室である和室は扇を広げたような、あるいは馬蹄形のような木質インテリアのワンルームとなっている。配置計画や地域の風向き、開きたい風景、敷地形状からLDKの平面を導き、それに対して客室やバスルームが納められた単純な箱型が光と風が抜ける玄関を介して接続されている。
キッチンとリビングは見通しは良いのに、カーブによって死角があるため互いの距離感が保たれつつ、心理的圧迫感がない。また、カーブによって移動するごとに室内風景と外の景色の取り込まれ方に変化が生まれ、歩く楽しみも生まれる。
東北地方の伝統民家である南部曲り家が台所の窯の排熱でハナレの厩を温めたように、この住まいもハナレまで暖気を循環させる仕組みが施されているエネルギーロスの少ない住まいである。
アーキテクチャが人に提供できることのひとつに記憶の継承がある。
本プロジェクトは災害復興住宅という役目を仰せつかったが、課題は心の復興そのものをどのように建築で実現できるかだった。地産地消の木材を用い、積極的に内装の木質化を図ることはもとより、被災前の住まいを考察し、再建したセカンドハウス・セカンドライフに引き継げるものは積極的に導入している。それらは、運良く残った玄関のポーチ灯や食器棚、あるいは塀に使われた大谷石である。大谷石は薪ストーブの炉壁・炉台やエントランスのアプローチへ転用した。
また、罹災以前の家屋の「慣れた動線」という日常の動きへの配慮も密かに組み込むこととした。外壁仕上げはリシン吹き付けという日本の戦後建築ではありふれた仕上げを選んでいるが、これも以前の住まいで用いられた素材を踏襲している。唯一の違いは孫に色を選んでもらったことだろう。設計ではそのような家族でつくる楽しみも時より織り交ぜるよう心がけている。
真新しい暮らしが始まっても、全て新しいのではなく、体が記憶していることに関してはできる範囲で自然体で引き継いであげたほうが使いやすく、新旧の混在によって使い慣れたモノコトに新たな発見を見いだせる楽しみも生まれる。
掲載誌・Web
『Replan東北VOL.48』
『Replan東北VOL.43』
『designboom』
一般住宅設計 | 前見 文徳
種別 | 新築
構造 | 木造
予算 |